2022 REDBULL JOYRIDEレポート
Covid19の影響により3年振りの開催となったCRANKWORXのスロープスタイル競技であるREDBULL JOYRIDE。
自分も3年振りにこの場所に戻ってきました。第1回目から生で見ている自分としては、再びこの場所に戻って来れて幸せです。
ちなみにCRANKWORXのスロープスタイルは2004年に始まって今年で18回目となります。そしてREDBULLがスポンサーになりREDBULL JOYRIDEと言う名前になってその盛り上がりに加速を掛けてから今年で10年目。年々観客の数を増やし(今年は37000人の観客数)世界中からファンやライダーが訪れ、今や世界ナンバーワンのMTBイベントになっています。
さて今年はどんな内容だったかと言うと、今年も激アツでした。現在CRANKWORXワールドツアーで7連勝中だったエミル・ジョハンソンがその記録を8連勝目に伸ばし圧倒的なランで見事優勝を飾りました。
スタートドロップからのハーフキャブバースピン、連続ジャンプでの360オポダブルテールウィップ、360テールウィップワイパー、ヒップでの360バースピンアンターンダウン、スフィアでのナックナック、ボナーログでのダブルダウンサイドテールウィップ、クォーターセクションでの540アンターンダウン、最終セクションでの360トリプルバースピンと完璧のランでした。
この見事なランの裏にはビックリする事実があって直後のインタビューでも言及していたのですが、彼はちょうど1ヶ月前にバイクパークでクラッシュし、右手中手骨第三指を骨折しプレートを入れる手術した直後のコンテストだったと言う事です。
受傷後わずか1ヶ月でリハビリして優勝してしまうなんて信じられないと言うかとんでもない肉体と精神力ですよね。
大会当日の1週間前はハンドルをまともに握れなかったそうです。
REDBULL JOYRIDEの直前にBC州で2つの大きなスロープスタイルコンテストがあってその2戦とも欠場していたのはこんな理由があったんですね。
2位のティム・ブリンガーは2019年のルーキーオブザイヤーを獲得している近年登り調子でイケイケなライダー。ステップダウンでのダブルバックフリップ、ダブルでのトリプルテールウィップバックフリップなど完璧ランでした。
3位のトーマス・レモインが個人的にも観衆的にも間違いなく今回のハイライトでした。彼はKING OF CRANKWORXにも数回なった事のある才能あるライダーで数日前のSPEED&STYLEでもゴールドメダルを獲得しています。プロマウンテンバイクライダーの中でもズバ抜けた才能を持ちバイクコントロールは一級品。ラッパーと言うミュージシャンの一面も持つのですが、そのレモインのランが最高に熱かったのです。
スタートでのマニュアルからのタックノーハンダードロップ、連続ジャンプセクションでのダブルバックフリップ、ダブルバースピンタックノーハンダー、などスタイルバッチバチのトリックを連発。
そしてそして、最終セクションで誰もが度肝を抜かれるジャンプをしたのです。彼はなんとキッカーからプラットフォームに飛び乗らずに、ランディングまで一気に飛び越すと言うとんでもない荒技をメイクしてしまいました。
これにはその場にいた誰しもが、LIVE配信を見ていた世界中のファン達が、解説をしていたキャム・マッコールも叫ばずにはいられなかった瞬間でした。
実はこの最終セクションでの一気飛びには逸話があり、それは2004年にまで遡ります。
フリーライドマニアの間で度々話題となる、ポール・バサゴイティアがキャムジンクから借りたハードテールバイクで、優勝してしまったあの伝説の第1回大会での事。
ティモ・プリッツェルと言うドイツ人ライダーで当時のDVDに出演しまくりのイケイケだった伝説のフリーライダーが同じくラストのセクションで今回のレモインと全く同じ事を行っていたのです。そのイカれた飛びっぷりは世界中のフリーライドファン達から大絶賛され、多くのリスペクトを集めました。
今回のレモインの飛びは僕の頭の中で当時の映像が完全にフラッシュバックされました。
僕だけでなく当時を知る30代、40代の世界中のフリーライダー達の胸を強烈に熱くさせたに違いありません。
当時のティモは惜しくもクラッシュしメイクこそなりませんでしたが、今回レモインはそれを見事メイクしてしまったのです。しかも当時よりも数段デカいセクションで、さらに当日の朝の練習時にクラッシュしたにも関わらずですよ。
それを本番で再びチャレンジし、キッチリメイクするなんてマジでSICKです。転倒した練習ではオーバーシュート気味にランディングして耐えきれずクラッシュしましたが、本番では踏切の強さを調整して2本目のランでは完璧なビタ着をメイク。
それは正にREDBULLランページ級のSENDでした。
彼はスロープスタイラーだけど今年ランページ出た方がいいな笑
トップ3のランはもちろん素晴らしかったのですが、他のライダーのランも素晴らしいものばかりでした。
個人的には12位のデイウィッド・ゴズィエックがイケていた。
不運にも1本目ではパンク、2本目は最終セクションでオポテールウィップを失敗し、ゴールならずでポイントは低かったものの、ハーフキャブバースピン、ツイスタータックノーハンダー、スフィアでのドボガンとバースピンアウト、360インディなどなどスタイルとスキルの分厚さを見せ付けてくれました。
彼は少し前に開催されたXGAMES BMXダートジャンプのゴールドメダリストです。
今やBMX出身やBMXとMTBの両方を楽しむライダーが海外では増えています。今回2位になったティム・ブリンガーもBMX出身だし、最近までスロープスタイルに出ていたアメリカの英雄ライアン・ナイキスト、そしてイギリスのクリス・カイルもMTBに乗りまくってますね。
それこそ日本の中村輪夢君がMTBに乗ったら面白い事になりそうですよね。
今回のコースに関してマニアックな解説をすると、今年はREDBULL JOYRIDEが10年目となりこれまでと全く別物のコース設定になりました。
今年からはJOYRIDE代表のパディ・ケイに代わりジャスティン・ワイパーが総合プロデュースを担当する様になったんですね。
ジャスティンと言えば知る人ぞ知る元BLACKMARKETのライダーでそのスキルは折り紙付き。これまでJOYRIDEでパディの右腕として働いていて、その実力が買われ今回の総合プロデューサーに就任しました。
まぁ僕としてはジャスティンと言えばカトマンドゥ(ウィスラービレッジ内のケンタッキーの隣にかつてあったバイクショップ の名前)の店員でエアードーム(かつてウィスラーにあったインドアバイクパーク)受付のあんちゃんのイメージが強いですけど笑
そのジャスティンは今年ブランドン・セメナックと一緒にセメナックのREALMと言うビデオプロジェクトに参加していたので、気が付いた人もいるかもしれません。
そのREALMからインスパイアされたのが今回のスフィアと呼ばれる半球体状のセクションなんですね。
スロープスタイルのプラクティスの時にしれっとセメナックも試走していて、それに気が付いたファン達は声援を送っていました。
そのジャスティンが手掛けた今回のコースは、僕個人の視点からすると少し物足りないものだったと思わざる負えません。
その理由はいくつかあって、まず1つはセクションが少し小振りだった事。スタートのドロップやラストのドロップは明らかに例年よりも高さが低いものでした。ラストセクションはウェイルテールではなくフラットだったがために速度が乗らず、各ライダー達は難易度の高いトリックが出せませんでした。
途中の連続ジャンプも距離と間隔が狭く、オーバーシュートしたライダーが多かったですね。オーバーシュートすると忙しくなり次のジャンプに繋げにくくなってしまうので、2つ目のトリックが決まりにくくなりどうしてもシンプル目なトリックになってしまうんです。
実際にほとんどのライダーが滞空時間の少ないこのジャンプではオーバーシュートしてしまい本来の大技を出し切れていませんでした。ニコライ・ロガーキンは4回転回す1440やキャッシュロールテールウィップなどの滞空時間を要する大技を出せずじまいに終わってしまいました。
今回のコースでは、その少ない滞空時間と忙しい環境の中で複雑なトリックをメイクする必要があるので、ある意味かなりテクニカルになってしまいMTBスロープスタイル本来のデカさと言う醍醐味が失われてしまった事は個人的には少し寂しかったですね。
ウィスラーはデカい!って言うのが選手達の間で話されている1つのキーワードだったですから。
ウィスラーバイクパークのボーンヤードと呼ばれるスロープスタイルのコースがある斜面は急峻でいて、その上にチェアリフトが通っていると言うスロープスタイルコースを造る上ではかなりビルダー泣かせの制約があるので、REALMのスフィアを造るためのスペースを確保するために他のセクションの配置や大きさがそのしわ寄せを受けてしまった様に感じました。
MTBらしいデカさが売りであったウィスラーのスロープスタイルコースは今や同じ州にあるシルバースターやビッグホワイトのスロープスタイルコースよりも小振りになってしまって少し寂しさを感じてしまいました。
かなりマニアックな視点ですが、こんな視点から見ても楽しめた2022年のREDBULL JOYRIDEでした。
今までは当たり前の事の様に毎年クランクワークスのスロープスタイルを現地で観戦していた事がその機会をCovid19によって奪われ、今年再びウィスラーの地に帰って来れた事はプロMTBライダーの端くれとして最高に幸せな瞬間でしたね。
また来年も現地で観戦しレポートしたいと思います。
これは限りなく100%不可能な事ですが、もしも自分の息子がこの舞台に立ってくれたらその次の日に死んでもいいとさえ思います笑
それではまた。
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